Hyperliquid vs Pacifica 比較レポート

エグゼクティブサマリー

HyperliquidとPacificaは共に無期限先物取引所として類似の基本設計を持つが、インフラ・リスク管理・機能面で明確な差異がある。Hyperliquidは独自L1上でフルオンチェーン・高スループットを実現する先発プロダクトであり、Pacificaは後発としてSolana上で構築され、動的証拠金調整やADLなどリスク管理機能を強化している。

類似点

1. 基本契約仕様

Hyperliquid: USDC担保・USDT建て（技術的にはクアント契約） Pacifica: USDC担保・USDC建て

2. 証拠金システム

両取引所とも以下の証拠金計算ロジックを採用：

初期証拠金 = position_size × mark_price / leverage
メンテナンスマージン = 初期証拠金の50%（最大レバレッジ時）

出金可能残高の制約:

withdrawable_balance = account_balance + unrealized_pnl
                     - max(initial_margin_required, 0.1 × total_position_value)

両取引所とも総ポジション価値の10%以上の証拠金維持を要求。

3. ファンディングレート

完全に同一の方式を採用：

計算式:

Funding Rate (F) = Average Premium Index (P)
                 + clamp(interest_rate - P, -0.0005, 0.0005)

premium = impact_price_difference / oracle_price
impact_price_difference = max(impact_bid_px - oracle_px, 0)
                        - max(oracle_px - impact_ask_px, 0)

4. 清算プロセス

両取引所とも多段階清算を採用：

第1段階: メンテナンスマージン割れ時、オーダーブックに成行注文 第2段階: より深刻な状態でバックストップ清算（清算業者に譲渡）

清算判定にはマークプライス（オラクル+自社ブック状態を組み合わせ）を使用し、単一ブック価格によるウィック清算を防止。

5. オーダータイプ

Time-In-Force (TIF):

• GTC (Good-Til-Cancel)
• IOC (Immediate-or-Cancel)
• ALO (Add-Liquidity-Only / Post Only)

6. 手数料体系

両取引所とも14日間ローリング取引量に基づくティア制手数料：

サブアカウントの取引量はマスターアカウントに合算され、同一手数料ティアを共有。

7. オラクル価格

両取引所とも複数CEXの加重集約を3秒間隔で更新：

Hyperliquid: Binance(3), OKX(2), Bybit(2), Kraken(1), Kucoin(1), Gate IO(1), MEXC(1), Hyperliquid spot(1)

Pacifica: Binance(2), OKX(1), Bybit(1), Hyperliquid(1)

バリデーターがそれぞれオラクル価格を計算し、加重中央値を最終価格とする。

相違点

1. インフラストラクチャ

Hyperliquid

• ブロックチェーン: 独自L1（HyperBFT コンセンサス）
• コンセンサス: HotStuffベースの最適化版
• 実行環境: HyperCore（証拠金・マッチングエンジン）+ HyperEVM
• オーダーブック: フルオンチェーン
• スループット: 約200,000 orders/sec
• レイテンシ: 中央値0.2秒、99パーセンタイル0.9秒
• 担保方式: USDC担保・USDT建て（クアント契約、USDC/USDT為替レート適用なし）

Pacifica

• ブロックチェーン: Solana
• ウォレット対応: Phantom, Solflare, Backpack, Ledger, WalletConnect互換
• 担保方式: USDC担保・USDC建て
• ステータス: クローズドベータ
  • 最大入金: $25,000/アカウント
  • 最大出金: $25,000/24時間
  • 最小出金: $1、出金手数料$1

評価: Hyperliquidは独自L1で超低レイテンシ・高スループットを達成。Pacificaは実績あるSolanaを活用し開発を迅速化したが、ベータ制限あり。

2. 証拠金・清算メカニズム

部分清算

Hyperliquid:

• 対象: >100k USDCのポジション（testnetは>10k USDC）
• 清算量: 初回20%のみ
• クールダウン: 30秒（期間中は全量清算）
• 清算手数料: なし

Pacifica:

• 対象サイズ: 動的（最大レバレッジに基づく）
  • 小ポジション（<$2,000×max_leverage）: 1チャンク（即座実行）
  • 大ポジション（≥$2,000×max_leverage）: 5チャンク
• チャンク間隔: 平均<1秒
• 清算手数料: max(0.75%, maintenance_margin_ratio × 0.4) 控除

動的証拠金調整（Pacifica独自）

PacificaはOI（Open Interest）の急増と取引所流動性の比率に基づき、初期証拠金要件をスーパーリニア（超線形）にスケーリング。市場過熱時にリスクを自動制御。

Hyperliquid: 固定の証拠金計算式（1/leverage）

バックストップ清算

Hyperliquid:

• 実行主体: Liquidator Vault（HLPの一部）
• トリガー: アカウントエクイティ < メンテナンスマージンの2/3
• 譲渡内容:
  • クロス清算: 全クロスポジション+クロス証拠金
  • アイソレート清算: 該当ポジション+アイソレート証拠金のみ
• 利益配分: 100%コミュニティ（HLP）に還元

Pacifica:

• トリガー: 同上（メンテナンスマージンの2/3未満）
• バックストップ清算業者による譲渡

Auto-Deleveraging（Pacifica独自）

第3段階清算: アカウントエクイティが$0未満に到達した場合、反対ポジションを持つ利益トレーダーをリスク優先度順に強制決済してシステム全体の健全性を維持。

Hyperliquid: ADLの記載なし

3. 手数料構造の詳細

Hyperliquid

ベースレート（Tier 0）:

• Taker: 0.045%、Maker: 0.015%

最高ティア（Tier 6, >$7B）:

• Taker: 0.024%、Maker: 0.000%

HYPEステーキング割引:

Maker Rebate （14日間Maker比率ベース）:

• >0.5%: -0.001%
• >1.5%: -0.002%
• >3.0%: -0.003%

手数料配分: HLP、アシスタンスファンド、Spotデプロイヤーに100%配分（チームゼロ）

Pacifica

ベースレート（Tier 1）:

• Taker: 0.0400%、Maker: 0.015%

最高ティア（VIP 3, >$500M）:

• Taker: 0.0280%、Maker: 0.000%

特徴: よりシンプルな構造、ステーキング割引なし

4. 高度なオーダータイプ

Hyperliquid

TWAP（Time-Weighted Average Price）:

• 30秒間隔で分割発注
• 最大スリッページ3%
• 実行ターゲット: elapsed_time / total_time × total_size
• サブオーダー最大サイズ: 通常の3倍まで
• 未執行分はキャッチアップ試行

Scale Orders:

• 設定価格帯に複数指値注文を配置

TP/SL専用オーダー:

• Take Profit / Stop Loss を指定価格でトリガー
• 自動的に成行注文として実行
• ポジションの一部または全部に設定可能

Self-Trade Prevention:

• 自己約定の防止機能

Pacifica

基本的なオーダータイプのみ（Market, Limit, Stop Market, Stop Limit）。TWAP、Scale、TP/SL専用オーダーの記載なし。

5. マークプライス計算

Hyperliquid

mark_price = f(oracle_price, book_state)

詳細な計算式は文書化されているが、独自方式で外部CEX価格とオーダーブック状態を組み合わせ。

Pacifica

mark_price = median(
  oracle_price,
  median(best_bid, best_ask, last_trade_on_pacifica),
  perpetual_price_from_major_cex
)

3つの価格ソースの中央値を採用し、操作耐性を高める。

6. 成行注文の上限

Hyperliquid

指値注文上限: 成行上限の10倍

Pacifica

指値注文上限: 成行上限の10倍

Hyperliquidの方が上限値が高く、大口トレーダー対応が優れている。

7. その他の機能差

Hyperliquid

• Builder Codes: 開発者向け紹介コード（最大$1B取引量、$25M割引上限）
• HyperPS: ポイントシステム
• Margin Tiers: ポジションサイズに応じた証拠金段階制
• Robust Price Indices: 堅牢な価格指数
• Market Making: MM向け機能

Pacifica

• グローバル出金キャップ（時間ベース、リスク軽減）
• クローズドベータ制限

技術的詳細の比較

清算価格計算式

Hyperliquid

liq_price = price - side × margin_available / position_size / (1 - l × side)

where:
  l = 1 / MAINTENANCE_LEVERAGE
  side = 1 (long), -1 (short)
  margin_available (cross) = account_value - maintenance_margin_required
  margin_available (isolated) = isolated_margin - maintenance_margin_required

Pacifica

liquidation_price = [price - (side × position_margin) / position_size]
                    / (1 - side / max_leverage / 2)

where:
  side = 1 (long), -1 (short)
  position_margin = account_equity (cross), isolated_margin (isolated)

両取引所の計算式は本質的に同一。

ファンディング支払い計算

Hyperliquid

funding_payment = position_size × oracle_price × funding_rate

重要: オラクル価格を使用（マークプライスではない）

Pacifica

funding_payment = position_size × oracle_price × funding_rate

同一方式。

結論

Hyperliquidの強み

1. インフラ優位性: 独自L1で超低レイテンシ（0.2秒中央値）・高スループット（200k orders/sec）
2. 完全な分散化: フルオンチェーンオーダーブック、透明性の高い清算（Liquidator Vault）
3. 高度な機能: TWAP、Scale、TP/SL専用オーダー、Self-trade prevention
4. コミュニティ還元: 手数料・清算利益100%還元、Maker rebate
5. 大口対応: 成行上限最大$15M
6. 実績: 本番稼働中、制限なし

Pacificaの強み

1. リスク管理の革新:
   • 動的証拠金調整（OI急増時の自動対応）
   • Auto-Deleveraging（第3段階セーフティネット）
2. 実績インフラ活用: Solana採用で開発期間短縮
3. ベースレート競争力: Taker 0.040%（Hyperliquid 0.045%より低い）

Pacificaの課題

1. クローズドベータ制限: 入出金$25k上限、スケーラビリティ未検証
2. 機能不足: TWAP/Scale/TP/SL専用オーダーなし
3. 流動性: 後発のため初期流動性確保が課題

総合評価

Hyperliquid: 独自L1による技術的優位性、豊富な機能、実績が強み。完全分散化と高性能を両立した先発プロダクト。

Pacifica: Hyperliquidの基本設計を踏襲しつつ、動的証拠金調整・ADLなどリスク管理面で差別化。Solana上で構築し開発を迅速化したが、クローズドベータ段階でスケール・機能は限定的。市場の成熟に応じてHyperliquidとの機能ギャップを埋める必要がある。

本レポートは2025年9月時点のドキュメントに基づく。